プレゼンテーションの技術
問.「あなたは部屋で浮気の真っ最中でヒートアップしてる。そこへ、突如、友人達と旅行へいったはずの彼女が帰ってきて、部屋へ入ってきた。俗に言う逆矢口状態だが、この状況において彼女が納得しうる弁明を以下に述べよ。ただし、空気抵抗*1と重力*2の影響は無視するものとする。」
「人に何かを伝える」ってコミュニケーションの基本だけれど、とても大事なこと。これが社会人になると、何かが伝わればいいんだよ!という前提を通り越して、論理性、客観性なども加味しなければなりません。全ては「説得力を増すために」です。
売り込みでも企画でも、すべては説得力がなければ何も動きません。弁明でもそうです。人に何かを伝えて終わるのではなく、伝えて人を動かさなければならないのです。
例えば、プレゼンテーション資料を作る際、マッキンゼー社ではパソコンのスイッチを入れてパワーポイントを立ち上げるのは、最後の最後、すなわち思考を形にする最後だけなのだそうです。それまではひたすらに思考を磨き、無駄を排し、論理を高めて説得力を増す。つまり、それまではひたすら紙とペンを駆使して何度も何度も書きなおすのだそうです。いい会社ですね。文具クラスタ的には。
伝えたいメッセージを明確に
まずはこれがなければプレゼンテーションもありません。そのプレゼンを通して伝えたいメッセージを決めます。伝えたい、人を動かしたい何かがあってプレゼンをするはずです。そのメッセージを明確にしましょう。
ここでは仮に、『夢遊病は自分の意志ではどうしようもない』というメッセージにしておきます。
ストーリーラインで流れをつくる
次にストーリーラインを作ります。フローチャートなどで、説得する過程を一つのストーリーになぞらえてつくります。流れがスムーズか、論理的に矛盾がないかなどををチェックすると共に、プレゼンテーションの大きな設計図になります。
例:
最近、仕事が忙しくて疲れている。 → 疲労は精神的・肉体的にも影響が大きい。 → 最近、夢と現実の区別が難しく、夢遊病を疑い、通院すべきか悩んでいた。 → 彼女だと思ってことに及ぼうとしたら別人だった。 → 彼女が部屋へ踏み込んだとき、ドッペルゲンガ―かと思ったところで目が覚めた。 → 通院を決意。
資料ドラフト
さて、綺麗にストーリーが流れているということは論理的にも矛盾がなく、理解しやすいということです。もし、ここでつまずくようであれば、ロジックツリーなどを用いて問題を構造化し、根本的に解決しなければならない仮説(イシュー)を探し出しましょう。
根本的問題解決のためには、クリティカルな質問を自問自答していかなければなりません。
「友人達と旅行に行くといいながら平気で戻ってくる彼女こそ尻軽である。初志貫徹と有言実行を叩き込む」
という結論に至っても不思議はないのです。ただし、状況から見るに、いくら偉人や一流企業の精神をもって説教しようが、いいわけご無用な感じで浮気していた人の説教など、ちくわもいいところです。鼻で笑われるかもしれない。
まずは自分が折れて悲壮感を醸しながら、全てのストーリーの起である冒頭の病の疑いへつなげるのです。これすなわち「起」。まずは、聴衆を惹きつけなければプレゼンテーションなど聞き耳を持たれないのが普通です。その意味でもこの「起」は非常に大事です。
1チャート1メッセージ
1つ1つのトピックに説得力を持たせたい場合、それぞれのトピックに持たせたいメッセージを明確にしなければなりません。そして、それぞれのメッセージの説得力を増すために最適なチャートを選択します。留意しなければならないのは、1つのチャートに持たせるメッセージは一つまで。あれもこれもと詰める分だけ、説得力は薄まります。何度も試行錯誤して、どうしても伝えなければならない、もっとも大切なメッセージを選択しましょう。
ここで例えば、浮気や不倫が取り沙汰された芸能人の名前を羅列しても意味がありません。収入も知名度も違う彼らと、浮気の頻度を比べてみても何の参考にもならないのです。しかし、次のようなチャートがあったとしたらどうでしょう?
(出典:第2回 男女の生活と意識に関する調査)
まず、データの出典を明らかにすることは鉄則です。加えて、この調査は平成16年度厚生労働科学研究費補助金研究の一環で行われたことも強調しておきましょう。
こうしてみると、複数人と性的な交渉をした人がけっこうな数いる世の中であることが一目瞭然です。すこし視点を変えるならば、相手が「1人」と答えた66.6%の層です。これに注意しないと統計の罠にはまってしまいます。
恋人、夫婦関係で相手が「1人」と、特定の相手がいる・いないにかかわらず「1人」という回答が同一視されているのです。
例えば、自分に恋人はいないけれど、この調査の直近1年間で近所の人妻さん1人のみと関係を持ち続けていたとしましょう。それは純粋なのか?純愛なのか?汚れた愛なのか?そもそも愛に明確な回答を求める行為こそナンセンスであるということを強く主張できるスライドにすると有効でしょう。
クソなプレゼンを参考にする
かつて研修の一環でプレゼンスキルのセミナーを受けさせられました。一年間のプログラムで開催頻度は月に1回。もうなんだか、全国に散らばってる同期の同窓会的な空気もありましたが、その最後の集大成がプレゼンでした。
それがもうプレゼンテーションというか、イコールの記号=でウンコとかと等式が成り立つ代物だったのです。セミナー参加者総勢50名程度。一人3分間のプレゼンテーション+質疑応答。
いやー、、すごいですよ。もう3人目から飽きてしまってですね、『阿弥陀仏』でも唱えて徳を積んじゃおうかと思いましたもん。しかし、この苦痛のタネこそいいプレゼンのヒントです。これしちゃらめぇぇの生きた例なのです。
1.原稿の朗読会
声優でもないのに、資料スライドを印刷したレジュメの朗読会を始めるシルベニアファミリーみたいな人が必ずいます。森の中で朗読して、動物がビタいち来ないタイプ。
朗読会なんて、声優さんがするものじゃなけりゃあまり価値はないわけです。自分で手元の資料を読んだ方が早い。
聞き手が求めているのは、資料に現れない話(=価値)なんですよ。
2.時間無視
1分経過と終了30秒前、終了時に時間を知らせるベルがなります。規定時間が決められているのだから仕方がありません。
しかし中には終了ベルが鳴り響いても、自分のプレゼンを辞めない人たちがいます。辞めるどころかベルに促されてむしろヒートアップ。ベルを拍手かへぇボタンにでも聞き間違えているんじゃなかろうか。
こんな人が現れたとき、会場は暖かい一体感に包まれます。「とっとと終われよ…」と。
3.共通点がない(全く共感できない)
報告内容が、地域性が強すぎて参考にならない。たとえば、ゆるきゃら界で不動の位置を占めるくまモンは、「熊本=熊」という、誰もが連想しやすい流れと誰もが知っている動物がゆるいというキャラクターで成功しました。ところがあれが「肥後ずいき」とかのキャラクターだったらあそこまで有名にはなっていないでしょう。そもそも肥後ずいきが知られていないので、共感を得にくいからです。
ほかにも「うちの嫁のなだめ方」などをプレゼンされても「だからどうした」という至極当たりまえの感想しか言えません。はっきり言ってしまえば知ったことか、ということです。
しかしこれが「うちの嫁が浮気に気付いた10の違和感」とかいうタイトルになるだけで。「お?」となって興味を惹くことができます。大事ですよね。
4.面白くない
とにかく面白くないの一言に尽きます。だから聞く気も起きず、内容もどうでもいい。うまい人のプレゼンには必ず「笑い」が入っていますね。それもあざとくない内容の笑い。
このセミナーのときに笑った一番のことが、芋洗坂係長みたいな人が青スジ立てながら自分の主張を力説しているときのことでした。
中締めみたいな勢いで表示されているスライドの主張を終え、
「次に、こちらのプロシージャフローをごらんください」と青スジ立てまくったままスライド送りのボタンを押したら、わけのわからないちょうちょか何かが飛ぶアニメーション効果が発動したのです。
スライドにおいてはアニメーションを使った強調は、頭に配置場所やタイミングを完全に叩き込める人がやりましょう。
まとめ
さて、長々とプレゼンということについて語ってきましたが、一つ考えてもらいたいことがあります。基本的に、「時間は等価交換が原則」です。
聞く人も時間を費やす、演者も時間を費やして手を煩う。そこにはお互いのメリットが無ければいけません。相手に与えるメリットがないのであれば、せめて見やすい、聞きやすいように工夫するなどの配慮が必要です。
「夢遊病マジヤバイ。お前だと思って抱こうとしたら違う人だった、ヤベェ。俺もびっくりしたけど気づいてよかった。マジ、超ヤベェ。気づかせてくれてありがとう」
多分、絶倒するビンタとか喰らうと思います。