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『猟師になりたい!』

 

『猟師になりたい!』 北尾トロ/角川文庫

 モンハンXX(ダブルクロス)の発売を控え、X(クロス)の装備強化をはじめた。ニンテンドー3DSの中で、恐るべき兵器を担いでワイルドに駆けまわる自分の分身。銃弾をばらまき、時には巨大なトンカチで殴って、気ままに肉を剥いで焼いて食べる。

 画面の中の自分自身が、縦横無尽に自由を謳歌する様をながめていて思った。ハンターになるしかない。

  出入り口に多少の違いはあれども、著者である北尾さんの猟師への入口も同じようなものだった。だが、私たちはあまりに銃に対して縁がない。

 

 猟師になろう!と決意を固めたところで、手持ちの武器がなければ、それは面接を決意しただけの無職となんら変わりはない。例えば、免許のいらないトンカチならば、それを駆使して狩りをできるかもしれない。

 トンカチ片手に山へ入り、穴を覗いて斜面を駆け、見つけた獲物を殴打する。しかし、渾身の力を振り絞った一撃で獲物が昇天できるとは限らない。ここに、猟を生業とする者の矜持があった。いたずらに苦しめることなく、苦痛を一瞬で、そして奪った命は決して無駄にせず味わい尽くすのだ。

 

 そのためにも銃の所持は重要だが、その資格取得のための体験記を本書は詳しく記している。資格を取得するまでに必要な勉強、時間、コストなどは実際に体験した者でしかわからない情報であるし、猟師という人が身近にいるのは少数派だろう。

 

 例えば猟銃は、種類にもよるが弾丸と銃身は別々のロッカーで保管しなければならず、さらにそのロッカーは家の柱などに固定できるものでなければならない。この時点で、賃貸野郎である私の猟師への入口は砕け散った。

 

 資格を取得し、獲物めがけて引き金をひくところまでが描かれているが、注目すべきなのは狩猟という行為そのものについて言及した箇所だと思う。

 著者の北尾氏は娘さんから「かわいそうだから鳥を撃たないで」と責められる。また、害獣駆除の場合は子を産むメスから優先して撃つとのことだ。ある種、残酷のよにもとれる。

 

 残酷な行為であることは否定しない。と著者も言いきっているが、猟師は残酷な行為を生業とするからこそ、その命を最大限に尊ぶ姿勢をもってきた。私たちは、普段、肉や魚を食べる。そのために必要な残酷な過程は他者へ全てを委ねているから、何の罪悪感もない。対して猟師は全てを自分の手で行う。

 

 残酷な過程を自ら行い、命を奪った者だけがその重さを知ることができるのだ。その重さを知りもせず、ただ残酷だと叫びながらそれを口に運ぶ自分たちと、どちらが真摯に命と向かい合っているのだろうか。

 

 未だ自分を納得させる答えを、私は持ちあわせていなかった。