手帳の法則 その1
そろそろシステム手帳に、チャペルとかに備え付けてありそうな羽根ペンでも差して周囲のユーザーの度肝を抜き、圧倒的な独走態勢に入らなければならない。とか思っていたが、冬で周りは帽子を被り始めた人も多い。しかし、羽根があしらわれた帽子の持ち主はとんと見ない。
羽根ペンをさして、持ち主と共に世間体から飛んで行きそうな手帳を投稿してもさらに浮くだけという事態が懸念されて中止の英断に至った。
いまは朝7時を少しまわり、私はカフェで朝食をとっている。私の他には見知らぬおっさんが一人。なんの気概なくオレンジジュースを飲みながらトーストをもぐもぐしていると、さらにおっさんが二人入ってきた。
見知らぬおっさんが倍になるという惨状にもめげずに朝食をとっていると、ひとりのおっさんが手帳を取り出してめくり出した。
卑猥なものでもでてくるかに思われたが、ページには走り書きばかりで、それもかなり使い込まれていた。なんと魅力的な手帳だろう。
ほぼ日やジブン手帳でも、能率ゴールドでもない。名前も知らないようなただ使い込まれた手帳に底知れぬ魅力を感じた。
手帳好きというわけでもなさそうだ。ただ、仕方なく必要に迫れて手帳を使い込んでいる。そんな感じだ。写真を撮らせてくれという勇気もないが、隠し撮りしてもおっさんと手帳のコラボ写真しか撮れぬ。そんな自分の無力さとジャーナリストの違いを肌で感じた朝だった。
今日のスケジュールは完璧に手帳に記してある。ただ、いつもの時間より40分早めに職場に到着しなければならない。その結果、始発で家の最寄駅から繰り出すというボリショイサーカスみたいな出勤を余儀なくされていた。
どんだけスケジュールを精密に組み立て、それを把握していても自分の能力や体力がついていけるかは別問題である。
見知らぬおっさんの手帳から立ち込める、底知れない魅力に打ちひしがれながら店内を後にし、眠い目をこすりながら会社へと向かう。
店を出ると、ひとりのJKがいた。化粧や垢抜け具合から見るに、彼氏と交わった日を手帳のスケジュール欄にハートで書いてそうだけどそもそも彼氏がいなくて体重を書いてそうなJKである。やはり、、
「見知らぬおっさんが、仕方なく使い込んでいる手帳」のみりょくが凄まじい。私もあの高みを目指していかなければならない。
まずは見知らぬおっさんになることが第一歩である、と確認しながら出勤した。