いろは。

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クルトガの憂鬱 ―ADVANCEとローレット―

N書きやすい『クルトガ

  古今東西にはバラエティ豊かな迷惑メールが氾濫していると思うが、私のメールアドレスには「引っ越し侍」なる送り主から、相当数のスパムメールを頂戴する。しかもその一通一通が、名前の通り引っ越しに関する情報ばかりであり、色気の気配も感じられない。あまりに硬派過ぎて意図を掴みかねている。

  googleカレンダーの利用をはじめgメールも多用している。畢竟、その分だけ引っ越し侍からのメールに遭遇する確率が高い。

 そんな生活に何ら資することのないメールが跳梁跋扈しているスパムボックスを空にして、メールをチェックしたらカレンダーを開く。googleカレンダーのいいところは予定を簡単に変更できるところだ。しかし手帳はどうだ。

 

 基本的にはボールペンか万年筆なので、予定を自由自在に変更してくる上司にあたると横線で消すか、修正テープをひっぱるほかにない。けれどそれも面倒だ。

 ではフリクションはどうか。消せるボールペンだけれども、高温になると消えるというのが不安だ。日常生活では問題ないレベルかもしれない。しかしいつ誰にともなく火だるまにされるかもしれないし、宇宙人が侵攻してきた際や北朝鮮が核チックなボムを落とそうものなら瞬時に白紙になってしまう。それは避けたい。消す必要がなかったとしても、個人的にフリクションの書き味や線は好みじゃなかったりもする。

 

 すると一番の候補はメカニカルペンシルということになる。いわゆるシャーペンだが、私はシャーペンだけでいうとLAMYのLAMY2000 0.7mm / 0.5mm、スクリブル ぶっといの / 0.7mm、PILOT のタイムラインなどがある。いわゆる複合(多機能)ペンも含めるともう少し本数が増える。

 

 ところがである。一本一本はそれなりの値段がするものだが、最近の消費者向けシャーペンは進化している。その筆頭が三菱鉛筆の「クルトガ」だろう。

 私が学生のころはPILOTのDr.Gripが塾のクラスを席巻していたが、今の小学生たちはこのクルトガらしい。独自のクルトガエンジンを搭載しており、筆記の度にギアが回転することで芯をもブン回し、偏減りを解消するという優れものだ。線が太くなる度にペンをぐりぐり回していた手間がなくなり、細い線をキープできる。角消しのシャーペン版である。

 

 商品バリエーションも豊富で、一番オーソドックスなスタンダードモデルは450円。Dr.Gripよりも安い。はっきり言ってこのシャーペンが使いやすいのである。文具界では初登場時に話題になったが、つい最近では「ADVANCE」がリリースされた。回転して尖り続けるシャープペンが、より一層回るようになり、さらには芯折れ防止機能までついたという。詳細を見て行こう。

 

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 いくら「字がきれいに書ける」と謳ったところで、生きた上で培ってきたポテンシャルには到底かなわないということがわかる。あくまで、字をきれいに駆ける人が使ったら思い通りに書けますよ、というものであり、下手な人が書くとみるみるうまくなりますというものではない。

 

 ADVANCEは芯の回転が2倍であり、パイプスライドによる芯折れ防止機能付き。そして真ん中のローレットモデルは回転は半分でパイプスライドもないけれど、ローレット加工されたアルミパーツで、低重心設計のボディとなっている。

 

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 上がADVANCE(ネイビー)で、下がローレットモデルだ。口金やボディはほぼ同寸だと思われるが、ノック部パーツによりローレットモデルの方がやや長い。クリップについてはADVANCEモデルの方が長い。

 

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 注目したいのは口金パーツである。下のローレットモデルが製図用シャープペンのごとくまっすぐ伸びているのに対し、ADVANCEモデルの口金は根本から芯の先端に向かってだんだんと細くなっているのが分かる。

 クルトガにつきまとっていた筆記時の紙に対する接地ブレを抑制する機構の一環だろう。そして重要なのが次の点だ。

 

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 芯をしまったところの写真だが、ADVANCEモデルは口金部分が引っ込み、収納できるようになっている。サラリーマンにとってこの機能はとても大事で、これがないと口金を破損したり、刺したポッケから先端が突き出てコンニチワしていたりする。なのでとてもありがたい。

 

 芯は尖り続けるために回転続けるわ、収納のポケットに差しても問題なく、しかも芯折れ防止機能までついている。それが550円なのだから、コストパフォーマンスは高い。

 対してLAMY2000などデザイン以外はうんこときたもんだ。0.5mmの芯はスポスポ抜けるし、芯は挨拶みたいなノリで折れるし回転もしない。なぜ使っているのかと言えば、ブランドが好きで、高級感も適度にあるからである。

 

クルトガと文具のジレンマ

 ここで私はいつものジレンマに遭遇する。果たして私の文具を求める本質はどこにあるのか。

 文具は使って、あるいは使えてナンボである。一本につき数千円つぎ込んでシャープペンシルを買っても、筆記機能面ではたかが数百円に過ぎないクルトガやデルガード、オレンズネロなどの方が優れている。ならばそっちを使えという話なのだが、ところがどっこいビジネスの場では実用性よりもブランドの方が重要視される。

 

 馬鹿なことだと思うが、会社が粗品でもってくるペンや100均のペンなどは、内部で使うときは問題なくとも交渉の場では見くびられたりもしてしまうのが現実だ。ごくまれに会社からの粗品ボールペンが、モンブランなどのブランドに打ち勝つ例もある。

 かつて製薬会社がもってきたボールペンには、絶賛売出し中の薬品名のロゴが付されていた。「バイアグラ」という男らしすぎるフォントと名前が放つ異様な存在感は、明らかに他社の営業たちを圧倒していた。しかしそんな例はいくつもはみたことがない。

 

 例えば結婚式だってそうだ。結婚誓約書に署名をするときに使う、ハリー・ポッターホグワーツ入学前に準備させられたような羽根ペンだって、実用性で言えばジェットストリームとかに勝てるはずがない。しかし機能面よりも様式美が尊重された結果、羽根ペンがチャペルに装備されているのである。

 

 いくら好きなブランドで買っても、基本的な性能で敵わない。人は理想を求める生き物なので、どうにかクルトガがビジネスシーンでも違和感なく使えるようになってほしい。特許などの問題もあるのだろうが、消費者には関係がない。Dr.Gripにクルトガエンジンを搭載してもらいたいし、LAMY2000にデルガードの芯折れ防止機能が欲しい。なぜか機能と高級路線をうまくミックスできる企業が少ないのである。

 

 三菱鉛筆と言えば、業界における技術は随一であることは疑いようがない。ジェットストリームをこの世に送り出し、さらにはクルトガによって更なる市場を広げた。しかし、ジェットストリームにおいて高級路線でクソ極まりないデザインによって、インクの優位性をセルフで凹るという慈悲深いパフォーマンスを披露してきた実績がある。このままではクルトガも、手にした瞬間に道の側溝にブン投げたくなるデザインになるかもしれないという一抹の不安が残る。

 

 文具にはまるひとはブランドにはまるのか、書き味にはまるのか他種多様だ。その入口も、仕事の関係でしかたなく凝り始めた人だっている。そんな価値観の交錯に企業は追いついていないのが現状だ。

 しかし私はあきらめない。日本の底力をもってすれば、デザインも機能も満たした文具が出てくるに違いないと確信している。

 そう。かつては絶大な機能を誇りつつも人前に出せなかったものをインテリアの域にまで引き上げた、

 あのTENGAのように。