幸せになれる手帳。
世の中は基本的に不平等で残酷だ。私のデスクの後ろの島には、それぞれ濃いメンツが揃っている。意識が高すぎて、もはや意識だけのような存在になっている同僚N太。アンパンマンを数発殴打した後、いろはすを染みこませて田原俊彦で因数分解したような顔をしているB美など。
こんな亜熱帯林みたいな環境で仕事をしていると、ときどき自分でも血迷っているとしか思えない行動をするものだ。わけもなく彼女の顔を観ていると、祇園精舎の鐘の音が聞こえてきたり、毛穴の黒ずんだ色は盛者必衰の理(ことわり)をあらはすのかしらと思ったりする。
さかえるものは必ず衰退するのは分かる。ではB美のような、衰えたところからスタートを切った、滑り出しが順調な人はどうなるのか。
彼女のデスクマットには、結構な大きさで写真を引き伸ばしたものが挟み込まれている。よく見るとウェディングドレスのB美が、旦那の首に両腕を回して微笑んでいる写真だった。
最初は「おめかしした伊藤ハムかなんかの写真かな?」と思っていただけに、そのウェディング姿の写真が誇る攻撃力は凄まじいものがあった。両手を回して首を絞めようとしているようにしかみえない。油田の上とかに飾ったら、1時間くらいで掘削して石油が飛び出るレベルである。
そんな稀有な顔面関ケ原大合戦な彼女のウェディング写真は、ブスとか、醜いとか、迷惑極まりない幸せの押し売りといった一般的な感情をあっという間に置き去りにする。もう、そんな一般人みたいな感想ではなく、わび・さびを感じる段階なのだ。
仕事で彼女の顔を見ていると、「万物は絶えず流転し、変化・消滅が絶えない」という諸行無常を願わずにはいられない。正確には、諸行無常は正しい。おしむらくは、彼女の場合はちょっとやそっとの変化程度では焼石に水であり、その変化も下向きにしか作用しないであろうというということだ。
広い視野で捉えてみること
どんな人にもで、必ずいいところがある。それは、悲劇を背負った顔面のB美も例外ではない。その人のことを肯定的にみれば、かならずいいところが見つかるのだ。そして、私はB美のいいところを見つけた。声がアニメ声でとてもかわいいのだ。電話の応対などをデスクで聞いていると、やっぱりとてもかわいい。
しかし、幅広い視野で見てみよう。とてもかわいい声で、それは間違いなく彼女のいいところだ。しかし、そのカナリヤのようなかわいい声も、シン・ゴジラが通過したあとのような顔と組み合わさると、悲壮感しか生まれない。もう、B美の顔にぺんぺん草も生えない状態になる。残酷ではないか。
メリットもデメリットも、一歩引いて広い視野で見てみると、それらが逆転してしまうことは決して珍しいことではないのだ。そんな中、メリットやデメリットを突き抜けて、一つの目的を達成するという強靭な意思をもった手帳を発見した。
幸せになれる手帳
「幸せになれる手帳」は、正式名称は「なりたかった自分を実現し、物事を確実にすすめて夢を実現し、お金もしこたま稼げてゆとりある生活を送れる手帳」。その名を『Club Diary』という。
リンクを踏んでみて、一目見ていただければ目的を達成しうるためには手段を選ばぬといった強い気概が感じられる手帳である。
まずサイトの情報量が半端ではない。スクロールバーが小っちゃくなり、ひたすらに雅やかな情報が連綿と記されている。私が概要を紹介したい。そう、使ってもないのに勝手にレビューしたくなるほど、強い有引力を持った手帳なのだ。
コンセプト
『キャバ手帳×キャバ日誌』というコンセプトであり、キャバレーを前面に押し出した前衛的なコンセプトになっている。
キャバということで、つまりはその手帳も日誌も世の中のあまねく男性から、接客によってお金を引き出すという強固な意思が働いており、これは手帳の核であるリフィルの随所にも見受けられる。
価格
気になる価格にもサプライズが込められている。あらゆる情報を収納することができる、というシステム手帳の形態をとっており、そのバインダーの価格は3,600円。これはむしろシステム手帳では安い価格となっている。
特筆すべきはリフィルの価格であるが、これは項を改めて詳しく述べたい。バインダーと同梱されるリフィルのセットによって価格は変わるようになっている。セットのグレードによってWhite<Rose<Goldと分けられており、さすがキャバ手帳と唸る設定だ。
リフィル
Karte(カルテ)
カルテというと、我々は病院で書くアレをイメージする。まるで夢を売る仕事に群がる夢遊病患者みたいな扱いはさておき、顧客のプロフィール、水商売に特化する顧客の情報を管理できるリフィルであるとのこと。
顧客のプロフィールには、会社名、役職名、来店頻度などがあるようだが、おそらくフリー欄というところには年収だとか、愛人の条件などが記入してあるに違いない。
ちなみにこのリフィルは30枚(60名分管理)で1,800円。バインダーの半分の値段である。トモエリバーか何かを使っているんだろうか。
Contact(コンタクト)
こちらは連絡した日付、連絡手段など、エサをブン投げる営業活動管理簿のようなものである。指名かフリーかを色で塗り分けて手軽に管理できるといった、水商売の怖さの片鱗をみせることを忘れない。
このリフィルも1,400円という中々のお値段。
手帳の効果
これが、この手帳の誇る効果のほんの一例であるらしい。<売り上げの管理>にある、「一日の目標に届かなかった分は次の日に取り返す!」とか、そんじょそこらの意識の高さでは到底太刀打ちできまい。
とはいえ、私の同僚N太と比べてみれば、彼はその意識のすさまじい高さによってもはや意識だけの存在と化している。今朝なんて、私が定時ぎりぎりで滑り込んだところ後ろの席で、なんかもう意識体というか成仏しそうになってた。
彼に比べればまだまだ青いが、世間では充分通用しうる意識の高さである。
個性的なPR
手帳ユーザーたちによるレビューが掲載されているのも見逃せない。セクシャルなお姉さん限定で、なぜ野武士のようなビジネスマンのレビューが無いのかは気になるところだが、そこにもユーザーの個性的な視点による手帳の評価がなされている。
「リフィルを追加してもたくさん入るし、嬉しいペン挿しも付いたょ♪」
と思わずブン殴りたくなるような独特の語尾も、この手帳の宣伝ページに華を添える。
昨今問題になる、過労による自殺についても抜かりはない。「健康管理もお仕事のうち!」と銘打ち、接客中の眠気や肌荒れに警鐘を鳴らす。しっかり睡眠時間を管理して、「いつも元気な姿でホールへGO!」といった、まるでポケモンでも捕まえにいくような勢いで結ばれている。
私は水商売の店にはあまり縁がないのだが、睡眠時間以外にも健康面で気を配るべきところがあるのではないだろうか。おそらく睡眠時間だけでなく、ムーンプランナー的な月周期の管理とか、病気とかの管理もカバーしているのではないだろうか。
まとめ
夢を叶えようとするならば、これほどまでにとんがった仕様が必要なのかもしれない。目的のために手段を選ばない無慈悲なリフィルや、一度売ってしまったバインダーは買いなおさないから、毎年入れ替えるリフィルで稼げ!といった一途な姿勢は、我々が手帳を使う上で失ったなにかを示しているように思う。
ありとあらゆる情報を全て受け入れるシステム手帳だからこそ、このような専門特化の形態がとれるということにも注目したい。
きれいごとだけで夢を叶えられるほど、甘い世の中ではなくなってしまったことの証左ではないだろうか。
職場のPCでは編集の厳しい記事であったことも、最後に記しておく。