Personal Organizer Lab.

システム手帳・文具中心の雑記系ウェブログ。

君の名は。

 テキストには、書き手の人と成りが表れる。就職試験などに際して、エントリーシートという名目で一定のテキストを書かせる。見る人が見れば、書き手の本質を知る重要な手掛かりになるだろう。目は口ほどにものをいうらしいが、テキストはその人の内面を包み隠さず映し出すものなのだ。

 それを踏まえると、自分の書いてきたテキストを見ると暗澹たる気持ちになってしまう。知性を磨き、思考の切れ味を増す。そのために種々の書物から学び、万物から吸収してきた。その結果、アウトプットとして吐き出されるテキストがこの始末なのである。

 

 錬金術という言葉があるが、人の思考も似たようなものなのかもしれない。生活の中で森羅万象からあらゆることをインプットし、思考の働きいかんによっては値千金のアイデアが降ってくることもある。あくまで一般論であって、私の場合はなぜか卑猥で残念なテキストばかりが延々とアウトプットされてくるのだけれど。

 一時期は、教養とは何たるかを考えたこともある。しかし考えれば考えるほど、人前には出せないような妄想に陥ったため、その結論は据え置いた。据え置いたあげく、「教養が何なのかはさておき、人に教養があるように見られればいいや」という、無慈悲なほどに人間的成長の皆無な結論に落ち着いた。そして私は「語彙力」を獲得しようと決意したのである。

 

 実家にて久しぶりの自分の部屋に入る。高校生まで生活していた部屋だ。その中で古いゲーム機を見つけた。セガサターンである。その本体を見て、私は懐かしいゲームを思い出した。そこには、私のテキストに対する思いの原点が詰まっていたからだ。

 

 人生の中ではいろんな初体験があり、それらは今も記憶の中で鮮明に生きている。そのソフトは、私が人生で初めて購入したエロゲーであった。エルフという会社から発売された『下級生』である。

 下級生といえば自分よりも年下の学年に在籍するものを指す。そんなゲームを購入した私が、時の流れを経てたどり着いたのは「熟女評論家」。もはや人生にはどんな転機が潜んでいたものかわかったのもではない。閑話休題。これは特にエロについて語りたいわけではない。このゲームの主人公の発想、語彙力がズバ抜けており、それらが私に影響を与えたのである。

 

 恋愛シミュレーションゲームは、主にヒロインキャラクターとの会話について選択肢から適切なものを選び、好感度を上げながらイベントをクリアして、より一層の異性の絆を作っていくゲームである。エロゲーの場合は心の絆にとどまらず体の絆まで作っていく。

 しかしシミュレーションはあくまでもシミュレーション。選択肢を見てもあからさまなものが多い。国語のテストにおいて作者の気持ちをひたすら考え続けてきた私からすれば、茶番にも等しい幼稚な選択問題に過ぎなかった。ただし、この下級生に関しては全く別次元であった。主人公の思考や語彙力から生み出される選択肢が異次元なのである。

 

 例えば主人公が住んでいる街中のお花屋さんでバイトしている「持田真歩子」ちゃんというキャラクターがいた。しかし、バイトしている店員さんのフルネームなどを知る機会はそうあるであろうか?私たちの生活を振り返ればすぐにその難易度に気付かれよう。特に興味もない花家に足しげく通って、もはや下心としか思えない回数の世間話を重ねて名前を聞き出したのである。やっと名前を聞き出した。好感度が低いときはなかなか女の子は個人情報を開示しようとしない。20年も前の時代に、徹底したリアリティ主義を実現したゲームだったのである。

 

 しかし、その名前を聞き出したのもの束の間。会話の選択が訪れる。とくにこの会社のゲーム仕様は尖っているのだ。医師国家試験の中で「禁忌肢問題」というものがある。その問題を一定以上間違えてしまうと、その他がどんなに優秀な成績であっても合格できないという特殊な、絶対に間違えてはいけない問題のことだ。しかしそれはあからさまにわかるようなものらしい。

 さて、持田真歩子ちゃんの名前を聞いたときの選択肢は以下の通り。

 

「真歩子ちゃんか…

1.かわいい名前だね

2.一文字違ったらとんでもない名前だね

3.きれいな名前だね」

 

1か3かで迷うところなのだと思うが、2の強烈過ぎる存在感。

違うのか?もしかしてこれが正解なのか?むしろ過ち過ぎる選択肢だったとしても、その反応が見れるならば後悔はない気がする。まだ幼かった私は判断に迷った。迷いに迷った挙句に2を選択した。結果としては、ゲームには負けたが勝負には勝った。

 

 他にもこの主人公は、毒舌なのだけれども非常に魅力的な毒舌ぶりだった。それはひとえに、豊富な語彙力と巧みな言い回しによるところが大きかったと思う。かつて失恋に打ちひしがれる成績優秀な友人を「どうした?いつもの青びょうたんみたいな顔がより青いぞ」などと心配りできる人がどれだけいるだろうか?

 

 人生の勉強は、未だ終わりが見えずにいる。