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『なぜテーマパークでは朝から風船を売っているのか?』

 ふつう、年齢を重ねれば精神は円熟し、芸術に潜む機微を感じとって、心と感覚でものごとをとらえ、自分の人格や精神的根幹に取り込むことができるようになる。だから、神社仏閣や遺跡、古都に思いを馳せて巡るようになる。

 けれど34歳児を甘くみては行けない。精神的に豊かだろうが、悠久の歴史を感じさせようが、未だに掲げているのは「旅行はテーマパーク優先主義」である。会社や社会のしがらみをふりきるかのように絶叫マシンに特攻する様には、落涙を禁じえない。

 

 

 

『なぜテーマパークでは朝から風船を売っているのか?』
清水群/河出書房新社


 著者の清水氏は東京ディズニーランドオリエンタルランド)とUSJに勤務し、中小企業診断士を取得し独立。㈱スマイルガーディアンを設立し、日本で唯一の「遊園地・テーマパークコンサルタント」として活躍している。

 本書は著者の経歴紹介、テーマパークで行われる研修の事例ベースを対話形式での解説、などで構成されている。ビジネス書初心者にとっては、テーマパークを主軸として読みやすく、理解しやすい1冊になっている。これまでビジネス書などを敬遠していた人には、いい入門書になるかもしれない。

 

 閑話休題。「チコツちゃんにシコられる」をご存じだろうか。タイトルの放つインパクトが異常である。

 NHKチコちゃんに叱られる」で人気になった番組のパロディAVのタイトルだから、それもそうだろう。社会のトレンドに機敏に対応しる一方で、見る人に強烈な印象を残すタイトルセンスには脱帽ものだ。うっかり違うものまで脱ぎそうになってしまう。

 

 「NHKをぶっ壊す!」と鼻息熱帯低気圧と化しているこのご時世、すごいものをパロディ化したものだ、とつくづく思う。このような作品の場合、オリジナルとの比較評価を免れない。どこにオリジナルの要素があるのか、はたして男優はCGに嬲られて終わるのかという懸念、実際の撮影現場を想像するといたたまれないような作品ではないかという危機感。そして強烈なイメージだけが、タイトルを見た人の大脳新皮質あたりに彫り込まれる。

 でもAVの話は本筋ではないので置いておこう。こちらの著書がもつタイトルと、それ故に免れない比較について。

 

 出版社や著者にどのような意図があるにせよ、タイトルからは「UJSのジェットコースターはなぜ後ろ向きに走ったのか?」を彷彿とさせる。あまりにもこの土俵は無茶ではないだろうか。

 「ディズニーランドとUSJでの経験を経て独立したテーマパークコンサルタント」。ディズニーランドでのNo.1」と言い切るのはかなり難しい。けれど「ディズニーランド経験者」かつ「USJ経験者」かつ「中小企業診断士」(コンサルタント)とい絞り込みでいけば、ニッチな領域でNo.1なのは間違いないと思う。企画力は間違いない。


 経歴でも紹介されているが、「ディズニーランド」については2年で退社とある。うち、トレーニング期間、キャストとして、テーマパークの表も、アトラクション整備の裏も経験している。しかし、この2年間という期間をどうとるだろうか。
 その後、USJに転職され、運営管理畑を歩くことになるが、ここでは森岡氏が立ちはだかる。


 結果、森岡シリーズを読破している人からすれば、「無謀な後追い」にしか読み取れない。森岡氏に比べれば、キャリアも実績も、遠くまったく及ばないのは明白に過ぎる。

 なぜUSJのジェットコースターが後ろ向きに走ったのかは、森岡氏の置かれた環境、背負った使命、苦悩から導きだされたアイデアだ。なぜテーマパークで朝から風船が売られているのかは、マーケティングのケースからだ。オリジナリティ、ストーリー性という視点から見れば、立脚するベースがまったく異なる。だから書きあがるものも、必然的に異なるものになる。


 USJのコースターは、ある種、森岡氏の信念や価値観から派生した事象だ。清水氏の場合は、「安全を守りたい」という信念は、転職へと派生するのであり、読み手が求める事象のベクトルとはやや異なる。


 マーケティングやビジネス書の入門書としての位置づけであれば、非常に読みやすく、とっつきやすいテーマの1冊だと思う。けれどもタイトルによって、違う期待を背負った層(森岡氏のようなマーケティング論)まで取り込んでしまい、私のようなギャップが生まれた人も少なからずいるのではないだろうか。

 森岡氏のマーケティング論が「実践編」ならば本書は「イントロ・インプット編」だろうか。実践編は当然にUSJの事例にフォーカスされるのでオリジナリティは出さないようにしても出ていしまう。対してイントロ・インプットは、そこに強烈なオリジナリティがない限り、テーマパークである必然性がない。

 

 

 Who(誰に)>What(何を)>How(どうやって)、という定義付けはマーケティングにおいて非常に大事な基礎ではなかったか。


 ある意味で「n番目の森岡毅」を期待してAmazonにてぽちったのだから、そのタイトル付けは売上を伸ばすという短期的サイクルでは有効だったかもしれない。けれども読者はタイトルを買っているのではなく、そこに書かれている内容、つまり著者の経験、考え方、そしてそれらによる自分との相対化を求めている。

 それを踏まえたとき、このタイトルが果たして適切であったのかは一考の余地があろうかと思う。


 せっかくのユニークな肩書・経歴なのだから、n番目を目指すのではなく、オリジナリティによって「はじめての」を目指す著者になってほしいなと思った。その肩書きのユニークさは紛れもない。著者自身の魅力でもあるのだから。