いろは。

手帳・文具中心の雑記系ウェブログ。

医療とペン

 テレビや映画は娯楽として、やっぱりすごい。原作があると、その原作は緻密なインタビューや、もしくは原作者がスペシャリストだったりする。映画やドラマ化にあたってはアドバイザーが監修として付き、ディティールまでリアルに再現する。

 故に、女性のナンパにおいて土下座を繰り出せばことに及べると思ったり、深層心理では痴漢で凌辱を望んでいるのだと勘違いしたり、軽度な場合は女性でも自慰行為に耽っているといたアダルトファンタジーに惑わされることになる。しかしそれも無理からぬことかもしれない。

  幸いにも私は清廉潔白な人生を送っているものの、友人の中にはファンタジーと現実の区別がついてない人もいた。「童貞をこじらせる」といった表現はネット上でありふれているものの、その具体的な発症を見ると、こんなに恐ろしい病はないと思うだろう。

 高校時代のとある友人は、Soft On Demandというリーディングカンパニーのプロダクトにやられていた。彼は企画のフィクションを現実と混同し、その境界線を見失った。心霊スポットで事に及んだり、クレーンで吊るされた全面ガラス張りの個室でずっこんばっこんがふつうだと思っていたのである。おそらく彼の頭部をCTスキャンしたら、脳はバイブな形状をしているに違いない。断層まで卑猥なのである。

 

 ところで、あまりテレビドラマはその生活スタイルから観ることがほとんどない。それでも観るとすれば、やはり自分の業界がドラマになっているとついつい観てしまう。ストーリーこそエンターテイメントを追及した末に荒唐無稽になっていることが多いものの、ちょこちょことリアル過ぎるシーンの発見が面白い。

 私は今でこそ手帳好き、ペン好きという特殊な性癖をTwitterでさらけ出しているが、その萌芽はもとよりあったものの、一気に加速したのは仕事の影響だ。朱に交われば赤くなるというが、環境はそれよりもよりダイレクトに私たちを染めてくれる。

 

 映画「チームバチスタの栄光」の作者である海堂尊氏は医者である。医者が書くからこそ、物語で指摘する日本の医療制度の実態には生々しさがある。それが小説ならば、記述されぬ部分においてのディティールは、読者の想像力に委ねられる。

 例えば、「若年性乳がん専門触診士である私は、加藤あいに似た患者の触診を行った。指先が触れた瞬間、私は確信した。彼女はDカップである」という原作だったとする。これをドラマないし映画とするならば、避けては通れないのが記述にない部分も含めてビジュアル化しなければならない。触るときの「私」はどんな表情、息遣いだったか。周りに誰か人はいたのか。どんな部屋だったのか。などなど、一つの文章から一つの現実世界を構築するという作業はとても大変なのだ。そこでは専門家の監修が、リアルさを追及する大きな原動力となりうる。

 

 そういう意味で、私はこの海堂尊氏の原作映画化「ジェネラル・ルージュの凱旋」を観ていた。その中で映画の最大のヤマ場である倫理委員会のシーンがある。その中でふと気づいた。

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 委員会に出席している顧問弁護士のシーン。机の上に注目してほしい。このブログを読んでいる熱狂的な人は気づくだろう。そう、モレスキンである。デキる男の代名詞。たしかに弁護士の役柄にしっくりくる。手帳というよりも、委員会に参加するその場なのでノートの役割か。そこまで見越してのアイテム選定なのだろう。

それだけではない。委員会の副委員長を務める精神神経科の田沼助教授。

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 そう。これはトラベラーズノートに違いない。この映画が公開されたのが2009年3月7日。今から9年前である。この時期にトラベラーズノートを登用するとは、なかなかの目利きがいるに違いない。が、驚くのはそこではない。

 トラベラーズノートと言えば、なかなかフォーマルなシーンでは使いにくい手帳の一つだ。特に医療の現場ともなればそれは際立つ。となれば違和感になるのではとも思ってしまうが、医者の世界において精神科医師は独特なポジションを持つ。なんというか、独特な人が非常に多い。変わっている、というのだろうか。もちろん難関な試験を突破して医師になっているので頭はいいのだが、感性などが独特なところがある。それは作中の沼田助教授のキャラクター形成にも少なからず影響している。

 

 医療ドラマとなると白衣姿が印象的だが、その胸ポケットには必ずペンが差してある。そのペンは、全体が映されることはほとんどない。しかしクリップから見るに、かなり構想が練り込まれたものを使っていることがわかる。偉い先生ほど高価そうなペンを白衣に差しており、救急医師などは実用に特化した安価で(侮蔑の意味でなく場にそぐわないという意味で)使いやすそうなものを差している。

 

 医療とペン、そうタイトルを付けたが、真っ先に思い浮かぶのはPILOTのメガヒット商品「Dr.Grip」ではないだろうか。人工工学に基づいた握りやすいペンという触れ込みで、事実使いやすい。特に看護職ではDr.Grip4+1多機能ペンか、ジェットストリームの多機能ペンのどちらかを持っている印象だ。 

 医療界では、ナチュラルに文具にこだわる風土がある。幼いころのかかりつけの医院の先生は、万年筆でドイツ語のカルテを書いていた。最近はカルテも電子化して、ペンよりもキーボードを打つことの方が多い。それでもやはり、膨大な勉強量をこなしてきた経験からだろうか。そして医師や医療従事者は、特に一生勉強が続く仕事でもある。それ故にペンや筆記具にはこだわるドクターは多い。もちろん無頓着な人も多いが。

 

 医療ドラマを観ることがあったら、ぜひ胸ポケットにも注目してほしい。そこには私たちが大好きなものが詰まっているのである。そこには、こだわりつつも実用性を重視した、私達とはまたちょっと違った距離感の文具愛が存在している。