いろは。

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序章 決めたる意

 かつて「日本」と呼ばれていたころは、お金が税として徴収されていた。その税を財源にインフラや医療制度、年金が運用されていたことは、中学生ならだれでも公民の授業で習って知っている知識だ。みんな当たり前のように覚え、テストで回答し、点数を得ていく。そこには何の疑問も持たず、受験のための知識コレクションの一つとしての扱いしかないのが普通だ。だけど私は思う。お金で徴収されるなんて、楽な時代でほんとに羨ましいな、と。

  クリスマスの気配が漂ってくる11月初旬。昼食のためにカフェテリアに向こうと講義棟を出た。季節柄、単位の危機も迫っているというのに、大学構内にはカップルの姿が目立つようになってきた。駅へ続く構内のメインストリートを寄り添ってあるく人々。羨ましくないと言えば嘘になる。正確には羨ましすぎて、夜ごと枕を涙で濡らしている。私も恋人が欲しい!

 

 けれども恋人をつくる方法が分からない。恋人をつくる方法は、我が国において世間では触れてはならないタブーな話題だからだ。

「だからな、月の動きを読め。ちょうど潮が満ちるとき。要するに月を介して、間接的に太陽の干渉が最も大きくなる夜っていう条件で手紙を書くんだよ」

「ばかめ。なんで恋人をつくるのに天体が鑑賞するんだ。それならハッブル宇宙望遠鏡は今頃ハーレムになってなきゃおかしい道理だ」

「教会に行きたくない、でも恋人はほしい。そんなわがままが通るほど乙女の世界は浅くない」

「本当にそんなことで恋人ができるのか…」

 カフェテリアで私は嘆息した。恋人をつくるには、まず教会へ行かなければならない。教会で恋人をつくる方法を教えてもらうことができる。けれど、その方法はタブーとして他言してはならない。ただ聞き及ぶところでは、月の動きの読み方、コーチング、カウンセリングなどを駆使して世界と向き合い、天使や精霊を従えることで恋人がつくれるようになるらしい。教会は、現代で迷える私たちを子羊のごとく導く施設なので誰でも利用できる。恋人のつくり方だけでなく、なりたい自分になる方法や幸せになる方法も授けてくれる場所だ。お布施は、現金で渡すことは大いなる存在への冒涜とされ、教会が出版する本を購入したり、開催されるミサへの参加料を支払うことで果たすことができる。私はそのような雰囲気が苦手であるので、教会へ行かなくても独自に恋人をつくる方法を模索することを決意している。教会へは行くまい、頼るまいと固く意を決したあの日から約10年。いまだ恋人ができる気配は一切ない。こうして友人たちから日々、恋人をつくるための指南と薫陶を受けているのだけど、どうも恋人ができることと引き換えに、かけがえのないものを全力で捨てながら逆方向へ走っているように思う。

 

 まだ天皇制だったころ。日本は神仏習合で、神道か仏教かが主な宗教だった。そして天皇はその象徴でもあった。いま、このノートアクセルワールドを統治しているのは王。王は宗教にはさほど関心を示さない。ただ大きな王冠を載せては、国事行為として偉そうに視察したり助言したりもする。ときどき気まぐれで何かをつくれ、と命令がくだるらしいが臣下の人たちも大変だろう。けれども、王と民が交わる機会などほとんどないから、実態は分からない。

 私たちにとってさしあたり重大なのは、王の代理として税を徴収する伯爵たちだ。教会はお布施さえしていれば、無視していても特に問題ない。ときどき無茶なお布施を要求されることもあるが、そのときはきっぱりと断ればいい。けれども税は国民の義務だし、その税という義務が国民を苦しめることも昔から変わってはいない。伯爵たちは、王の代理という大義名分で、国民たちから税を徴収するのだが、その中には徴収の手数料が上乗せされるのが常だ。

 ただし、税はお金ではない。日々、私たちが生活の中で気づいて改良したノートブックの使用方法・テクニックを詳記し、写真などを添付して納めなければならない。なので平々凡々たる我々国民は、日々、伯爵さまや王に気に入られるようなテクニックを編み出すことに腐心する。特に著しく秀でた、または写真が美しいようなテクニックを多数納めた人は「高額納税者」として出版社が刊行するメディアに掲載される。伯爵や王に気に入られ、なおかつ他の国民に高額納税者としてマウントできることもあり、日々、メディアに掲載されるためにひたすらノートブックを持ち歩いているのである。

 

 この国は捕らわれた鳥であると私は思う。常に周りは壁に覆われている。外の世界を誰も知らない。王が、なぜ王なのか。それすらもだれも分からない。過去の栄光にしがみついて王を名乗っているだけ、という人もいる。いい年こいてるのに恥ずかしくないのか!と声をあげ処刑された人もいる。もはや、真実を知る人はいない。

 伯爵は伯爵で、徴収した税を。私たちの血税を私腹を肥やすことに利用している。

 

 私は心の中でつぶやいた。この世界でたった一人になろうとも。絶対に壊す。そして手にするのだ。本当の自由を。

 

 

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作者急病につき次回よりお休みします。